子どもたちにはアートとか感性を育てるのにいいんじゃないかしら?
と思っている方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
でも、なんとなく敷居も高い。
アートの世界では、日本人は技術力はあっても、コンセプトが弱いことを指摘されることがよくあります。
また、アートを見たり体験したときに、自分の意見や感想がなかなか出てこない、ということもあるようです。オーディオガイドとか、作品横の解説を読むのとか、大好きですよね。「へ〜、ほ〜。」と関心するばかりで、アートとの対話が弱い。
アートは大好きなのに鑑賞者としてもヨーロッパとレベル差が出てしまう。
どうして?
実のところ、アートを鑑賞するのには、ちょっとした練習が必要なのではないか、と私は考えています。
どうすれば、もっとアートがわかりやすく、楽しく、自分の視点で楽しめるのでしょうか。
今回はそのヒントになるような、イギリス・ロンドンにある、英国が世界に誇る近現代美術館、テート・モダンの子ども向けの取り組みをご紹介します。ちょっと昔の話なので、現在の様子はまた変化しているかと思いますが、私が「なるほど!」と感じた取り組みです。
ちなみに、ヨーロッパの多くの美術館は子どもたちの身近にあり、アートに触れる土壌が日本と違う、という話の回はこちらから。
テート・モダンって?
テート・モダンは、観光客も多く訪れる大人気のモダンアート美術館です。
コレクションの素晴らしさ、企画展の魅力度、最高にワクワクする美術館です。
建物も旧発電所をリノベーションした迫力ある建築。
基本的に入場無料。
一部企画展が有料です。
大人向けのプログラムも、もちろん沢山ありますが、キッズ・プログラムも充実しています。
Tate Kidsというウェブサイトもあります。
キッズ向けアクティビティシート
もう10年以上前ですが、美術館に来ている子どもたちが面白そうなことをしていたので、厚かましい観光客だと思われつつも、「私も欲しい。」とキッズ向けインフォメーションでアクティビティシートをもらいました。
「本当は子ども向けなのよ。わかってる?」と嫌味を言われても、平気です。
さて、それがこれです。
A3サイズ!大きい!
子どもの顔がシュールでちょっと怖い。
「What’ s in your head?(あなたの頭の中に何がある?)」と書いてあります。
シールももらいました。
A4サイズのシートで24枚。16枚には絵が描いてあり、8枚は何も描かれておらず、書き込むことができるようになっています。
大判シートの裏面はこんな感じ
導入部分にはこう書かれています。
(意訳)
『ロスコの部屋』で、頭に浮かんだことを探ってみよう。
あなたは、ロスコの部屋に入りました。
美術館にある他の部屋と、どうも違うと思いましたか?
この活動では、ロスコの絵画を探って行きます。絵や言葉を使ったゲームは、この作品に対して、あなた自身の答えを考えるのに役立つでしょう。
ロスコの部屋とは?
マーク・ロスコはアメリカで20世紀に活躍した、抽象表現主義の画家です。
抽象絵画でありながら、神話にインスピレーションを受けたり、精神性に訴えかける作風で知られています。
彼の精神世界は、多くの日本人にも心に響くものがあるとも言われ、大変人気の作家です。
ロスコは、自分の作品が、他の作家と並べられることを望みませんでした。
つまり、一つの空間に自分の作品だけが展示されている。空間を含めて自分の作品が理解されると考えていたのです。
ひとつの空間に展示したいと計画し制作されたロスコの壁画作品は、その願い叶うことなく、死後いくつかの美術館に分散して収蔵されました。そのひとつ、テート・モダンはロスコの意思を引き継ぎ、「Rothko Room」と名付けた部屋に一括展示しています。
そこは、他の展示室よりも少し照明が落とされ、部屋の真ん中にベンチが置かれ、独特の空気感をはらんでいます。
ずっと座っていると、ロスコの絵画をすり抜けて、別の世界へ行ってしまいそうです。
(これは、私の感想)
他2カ所にロスコの壁画は引き取られ、それぞれロスコ作品専用の「ロスコ・ルーム」に展示してあります。
1つは、ワシントンD.C.にあるフィリップス・コレクション
そして最後の一カ所が、
アメリカやイギリスは遠いけれど、日本にもあるから、ぜひ行ってほしい!
アクティビティ・シートの使い方
①何が頭の中に浮かんだ?シールを貼ってみよう。
自分が感じたことをイメージに置き換えます。
シールの絵を使ってもいいし、自分で描いてもいいです。
②あなたの体に何が起きた?言葉にしてみよう。
質問に答えながら、自分が感じたことを言語化します。
・あなたの心臓はどう感じた?例えば…「はね上がった」
・あなたの足はどう感じた?例えば…「崩れそう」
③ロスコの部屋を格付けしよう
良かったーーーーー悪かった
軽いーーーーーーー重い
動いているーーーー止まっている
小さいーーーーーー大きい
などの相対する言葉の間のどっちよりか。
「この辺かな〜」と思うところに印を入れます。
まとめ
いかがでしたか?
日本的な「感想を書いてみよう!自由に!」よりもずっと、具体的にイメージや言語を引き出す仕組みができている、と私は感じました。
特に、「言葉に置き換える」ことは結構難易度が高いのですが、アート鑑賞の語彙力が上がりそうなアクティビティシートです。
そしてこのアクティビティシートには当然「正解」はありません。
導きだした全てが、「あなたの答え」なのですから。
このような、ちょっとした練習を積み重ねることで、アート鑑賞はぐっと楽しいものに変わるのではないでしょうか。
言葉やイメージでの表現も、より自由に、解放され広がって行くのではないか、と思っています。