夢の国でパワハラ訴訟。第一に、「まあ、そりゃそうだろうな。」という感想です。
ディズニー愛に溢れる方にはマッチしない内容かも。読みたい方だけどうぞ。
ディズニーの経営戦略やホスピタリティには、高い評価があり、数々のビジネス本も出ています。
元ディズニーの方の講演を受講したことがあります。
ディズニーのスタッフ教育の凄さも感じたと同時に、当時から、「これは、夢だけでは語れない闇があるぞ。」とひねくれ者のなる子は思っていました。
まず、講師が嘘みたいな「笑顔」。あえてディズニースマイルと呼びましょうか。ディズニーリゾート内で見ればそんなに違和感はないのかもしれませんが、私には浦沢直樹さんの漫画「20世紀少年」に出てくる、ともだちランドのスタッフの不気味な笑顔を連想させたのです。
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その笑顔には「無理してない?」と思わざるを得ません。
ディズニーでは、レベルの高い“当たり前基準”ができるスタッフ作りに取り組んでいるといいます。笑顔、親しみやすさ、挨拶、身だしなみ、立ち居振る舞い、言葉遣い、など、相手から見てできているかどうか、を大事にしています。
ディズニーで働く人の9割がアルバイト、ということですが、新人が読んでも理解しやすいマニュアルを用意しているそうです。
一人一人が自分の役割を果たし、チームワークを発揮する、「おもてなしのプロ」としての誇りを持って毎日が「初演」の気持ちで緊張感を持って頑張りましょう!
というのがディズニーの考え方です。
ディズニーで働きたいと思うような方々は、夢の国で、夢のような体験をして、その素晴らしい体験を提供する側になりたい、と夢を持って就職したと思うのです。
オリエンタルランドといえば、大手だし、利益も出ているのだからそこそこ給料も良さそうなのに、結構低いんだな〜、と思いませんか?(時給1100円程度、契約社員でも1630円)
どれだけ重労働でアルバイトでも頑張れる。ほとんどの人がそうだと思うのですが、ディズニーで働いているというプライドがあるはずです。そのプライドは下手すると厳しい指導に繋がりかねないな、と想像するのです。
「夢の国ディズニーに来るゲストのためならもっとできるよね。あなたはできていないんじゃない?私はこれだけやっている。」という気持ちになってもおかしくありません。どれだけ素晴らしいサービス理念を持っていても、運用するのは人間。
理想通りにはなかなか行かないこともあるのです。
ディズニーで働いている人たちには辞めても守秘義務があり、ゲストの夢を壊さないようにしているようです。なかなか内部の話が外に漏れてきません。
元ディズニーのキャストの子に会ったことがあります。辞めた理由を聞くと、「人間関係。先輩とうまくいかなかった。」と言っていました。それ以上のことは言いません。
まとめると、ディズニーのホスピタリティはやはり素晴らしいのです。そこまでできるのは、キャストが持っている「ディズニー愛」の力が大きいと感じます。
ディズニー愛ゆえに、人間関係に歪みが生じることがあるのではないか。
そう思っていたので、今回のパワハラ騒動には驚くよりも「やはり。ついに訴訟になる日が来たか。」という感想を持ったのです。
「ディズニーは悪くない!」と原告の女性はおっしゃっていました。ディズニーは優良企業なのです。ディズニーのホスピタリティは血と汗と涙の結晶です。めちゃめちゃ働いています。そなると、優良企業であるかブラック企業であるかの違いは紙一重。結局は人間関係だな、と思う一件でした。
フランスのディズニーみたいに、やる気ないぐらいが人間らしいかもしれない。(あれはあれで問題ありか。)
星野リゾート「5人分をひとりで」
先日のTV東京「未来世紀ジパング」で、星野リゾートと、セレブがお忍びで通うと言われる「アマン」の取材をしていました。アマンは宣伝を一切しないホテル。1泊10万円を超えるにもかかわらず、リピート率3割越え。その理由はお客様に合わせたサプライズサービス。1部屋に5人のスタッフが、かゆいところに手が届く+αのサービスを提供しています。
一方、今や日本だけでなく海外からの観光客にも大人気のホテルグループ、予約が取れないくらい「星野リゾート」。星野社長は自らアマンに宿泊し、サービスの秘密を探ったそうです。
アマンのホテルがあるプーケットやジャワ島に比べると、日本の人件費は高い。そこで解決策として考えたのが、「ひとりが5人分の働きをする」こと。手作りのイラスト入りフォトカードを作ってプレゼントしたり、一人一人のスタッフのサービス力の高さが売りなのです。日本の労働者の質の高さがなし得る技です。
トヨタグループの「KAIZEN」
日本の企業にはボトムアップという考え方があります。対義語としては「トップダウン」が挙げられます。
「トップダウン」とは、社長の一言で全てが決まる、といった組織のこと。
「ボトムアップ」とは、下からの意見を吸い上げて全体をまとめていくタイプの管理方式のことです。
トヨタには長年ボトムアップで成長して来た実績があります。その中で「KAIZEN(改善)」という言葉はそのまま英語として使われたりもしているそうです。
いわゆる「PDCAサイクル」「Plan=計画」「Do=実行」「Check=評価」「Action=改善」の4つの段階を循環的に繰り返し行うことで、仕事を改善・効率化することを現場でやっていこう、という考え方です。
トップダウンで言われたことだけを実行するのではなく、一労働者自ら考えたことが業務改善に繋がる。改善レポートが評価されるとやる気もアップする。
労働者の離職率が下がり、生産性も上がる。企業にとってはいいことづくしのように思えます。
製造業において、「KAIZEN(改善)」のいいところは、業務を効率化することで、短い時間で目標を達成したりできること、なのですが、サービス業においては、どうしても、「サービスの上乗せ」をしがちです。これは過重労働を招くことになりかねない、と思うのです。
PDCAプロフェッショナル―トヨタの現場×マッキンゼーの企画=最強の実践力
労働者の質が上がると不満が起きるのでは
今回取り上げた企業は、どれも労働者のパフォーマンスを最大限に上げる取組だと言えます。実際、日本の労働者の質の高さには定評があるとも聞きます。
しかし、次に起こることは何かな、と考えた時に、「不満」が起きるのではないかと私は思っています。
低コスト、高パフォーマンスで企業を維持するやり方は、不況時の競争で大いに力を発揮して来ましたが、なんとなく景気回復モードになった現在、この「低賃金・過重労働」に無理が出て来ている、と感じています。
言葉で「ありがとう。」とか「あなたのおかげ。」と言われることはとても嬉しいことだし、明日への活力になります。
しかし、労働者はただの人間ですから、ある時、「あれ?おかしいな。私の仕事、対価があまりにも低いのでは?」と気づくのです。
不況を乗り越えたのに、求められるものはどんどん高くなるのに、給料だけは上がらない。
人手不足で、ひとりひとりの仕事はさらに増えている。
せっかく改善して業務効率化をしても、その空いた時間に新たな仕事を押し付けられるだけ。
労働者のジレンマを企業はどう解決していくか。
次の一手が出てくるまで、優良企業のパワハラ訴訟が、これからもまだまだ出てくるのではないかと懸念しています。
子育て系の現場でも似た現象は起こっている
現場の努力ってすごいと思います。低賃金で、総合的な能力を求められる、なかなかハードな現場です。
専門的な知識も必要です。常に勉強しながら、頑張っているのです。
どんなに頑張っても、どんなに顧客満足度が上がっても、収益アップには繋がりません。なぜならどこも補助金事業だからです。
税金の投入が大幅にアップしたところで、底辺にいる労働者にはなかなか届きません。
利用者の負担が減ることはあるかもしれませんが、労働者の賃金は上がらないのです。
これは介護福祉にも共通する部分ではないでしょうか。
労働者の質が上がる→賃金が上がらず辞める→人手不足→サービス低下
現場では危機感を感じている人はいるものの、いい方向に向いているとは思えません。
これからもっともっと労働者にはきつい時代がやってくる。
より良い未来を描くにはどうしたらいいか、なかなか答えやアイデアは出てこないけれど、真剣に考えなければいけないよな〜、と思っています。