なる子とマーナル☆

少女の心を忘れない、なる子とマーナル☆によるアート・旅行・キッズ応援ブログ

「ハウルの動く城」という戦争映画

東京の空、ブルーインパルス

本当に本当に暑い夏の日、「戦争」について考えてしまいます。私の祖父も祖母も、そして恩師と慕う先生も、かなり高齢になってから戦争のことを話すようになりました。

「戦争」を経験している世代にとって、深く刻み込まれている辛い記憶で、最近のことは忘れても、あの頃のことは逆に思い出すのだろうな、と痴呆が進む祖父を見て思ったものです。

 

医療従事者への感謝を伝えるためという名目でブルーインパルスが東京上空を飛びました。

直接は見なかったけれど、ニュースで見ました。

 

イギリスのVJ Dayを思い出しました。式典が行われているバッキンガム宮殿の上空を戦闘機が儀礼飛行するのです。

平和な世で見れば「かっこいい」とさえ思うでしょう。

VJ DayVictory over Japan Day対日戦勝記念日、8月15日、日本の終戦の日です。

www.ma-naru.com

 何も知らなかった私は戦闘機の轟音を聞いて一瞬こわばりました。なんでもないとわかると「もう一回来たら写真撮ろう」ぐらいの感じになっていたと思います。

 

ブルーインパルスのニュースがあった時、東京にはブルーインパルスが飛ぶという事前情報が入っていなかった人たちも多かったと思います。戦争体験のあるお年寄りは、あの戦闘機の轟音をどんな気持ちで聞いたのか、ロンドンで偶然戦闘機を見た私のように一瞬怖くならなかっただろうか。そんな不安がこみ上げてきました。

 

そして、宮崎駿監督はこのニュースをどんな気持ちで見ているのかな、と思ったのです。

 

ジブリ映画と戦争

どなたかがYoutubeで、「この新型コロナで起きたこの状況を作品に反映させそうだし、させた作品を作って欲しいのは新海さんと庵野さん。宮崎さんは、時代を映す監督というより、普遍的なものを描く人だ。」と言っていました。

面白い視点だし、とても納得がいくと思いました。宮崎さんの反戦の思いは、ナウシカからずっと続いているんだと思うのです。

 

ジブリ映画で「戦争」と言えば、「火垂るの墓」や「風立ちぬ」を思い出す人は私を含め多いと思います。

私は、この自粛期間中に「ハウルの動く城」を見て、「ハウル」も戦争映画だと思いました。

魔法や呪いなどでファンタジー感が強く、わかりにくいけれど、完全に戦争を描いています。

 

そのことを、ブルーインパルスが飛んだニュースを見て気づいたのです。「ハウル」は長い間見ていなくて、ほとんど内容を覚えていなかったけれど、ふと思い出したのです。明るく賑やかな街の上空を国旗や軍旗のようなものをたなびかせて飛ぶ軍用機のシーンを。

 

明るいマーチング曲が流れます。物語終盤では、この街が炎に包まれるのです。

 

平和で美しい日常の上空に戦争が近づいている気配がしました。

 

ハウルの動く城」は戦争映画だった。そのことに気づくと、この映画の見えるポイントが変わってきました。今更と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、映画が公開された時には「ハウルとソフィーおばあちゃんの恋愛ドラマ」だと思っていたので、この着眼点で映画を見ていなかったのです。

ストーリー解説をしながら、戦争映画としての「ハウル」のポイントを振り返りたいと思います。

 

老婆の姿になってしまったソフィーがたどり着いたハウルの城。いくつかの街に繋がっています。そんなハウル召集令状が届きます。ハウルは「怖いから行きたくない」と言います。

 

港町から出航した軍艦は、爆撃を受けボロボロの状態で戻ってきました。このあたりから、街の風景が変わっていきます。

 

港町から魔法で引っ越した先は主人公のソフィーの帽子屋でしたが、命令されてやってきた母親(原作では継母)が罠を仕掛けていくし、そのあと故郷は爆撃を受けます。穏やかな日常があった場所は破壊されたのです。

 

ハウルは「戦争」に行く度に心を病み、「やりすぎだ。人間に戻れなくなるぞ」とカルシファーから忠告されます。

 

魔法使いたちは、自ら戦う兵器となり、心を失っていくのだそうです。映画の中で牙をむいて飛んでくる鳥のような戦闘機は、元は普通の魔法使いたちだったのかもしれません。

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冒頭、休暇で街にやってきたと思われる兵隊さん2人にソフィーがナンパされ絡まれるシーンがあります。それをハウルが助けるのです。その時に「許してやりなさい。気はいい人たちです。」というハウルのセリフがあります。嫌がってるソフィーを困らせてるんだからいい人たちじゃないだろ、と突っ込みたくなりますが、「彼らはまだ戦争で心を失っていない」と考えると、ハウルのセリフも納得がいきます。

 

映画の中で、どこかの国とどこかの国が戦っているのですが、それが一体どんな国なのかなどの詳細は語られません。「サリマンがいる国と、カブに変えられた王子の国が戦ってたんだろうな〜」ぐらいの感じで、「相手国」みたいなものは見えません。

 

もし、敵という存在が物語の中にいるのだとしたら、それは「戦争そのもの」だと言えるでしょう。

 

ソフィーはハウルに「逃げて」と言います。戦争なんて行かなくていい、と。

ハウルは「守りたいものがあるから」と言って行ってしまいます。

 

ハウルの動く城」は唐突にエンディングを迎えます。

 

ハウルの心臓も戻ってハッピーエンド。ソフィーも若い姿になります。

 

呪いが解けて人間に戻ったカブは「馬鹿らしい戦争」を終わらせるために国に帰りました。

 

本当に、急にハッピーエンドになります。

 

なぜなら、戦争の上手な終わり方を人間は知らないし、ハッピーエンドは本当はあり得ないのだけど、どうしても戦争を終わらせてハッピーエンドを迎えたいから。無理矢理平和への願いを映画にねじ込むと、こういう終わり方になるのも仕方ないのかもしれません。

 

 

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戦争を知っている世代だから伝えられること、知らない世代だからこそ考えられること

ハウルの動く城」はファンタジーだし、恋愛ものです。それだけでも十分楽しめる要素があるのにも関わらず、「戦争」を入れたのは、監督が残したいものがあったからだと思うのです。戦争を経験しているからこそ、描き残し、伝えられることがある。

私たちは戦争を知らない世代だからこそ、日常の幸せと、その景色を一瞬で変えてしまうものがあるのだと受け止め、考えられることがある。

戦争で心を失いたくないな。

ハウルの部屋にあった卒業証書。なんのために魔法を学んだのか。

私たちはなぜ学ぶのか。その力を何に使うのか。

 

ハウルの動く城」を見るだけでも考えられることがいっぱい。

 

実は「怖くて見れない」と言いだす子どもも少なくないこの映画。

見れそうな年齢になったら、戦争について親子で考えるきっかけ作りに一緒に鑑賞するのもいいのではないでしょうか。