なる子とマーナル☆

少女の心を忘れない、なる子とマーナル☆によるアート・旅行・キッズ応援ブログ

ゴン攻めのM氏《M式「海の幸」》

絵画になる森村泰昌

アーティゾン美術館で開催中の森村泰昌『M式 海の幸』を見てきました。

ゴッホの肖像やモナ・リザに仮装したセルフ・ポートレートの写真作品が有名です。

ただの面白い仮装ではなくて、仮装を通して絵画や画家を深く探究していくところに森村氏の作品の価値はあるように思います。そのあたりは作品だけ見ていてもわからないこともあるので、著書を読むといいです。現代美術に興味がある人だけでなく、名画の見方を知りたい人にも面白い内容だと思います。

 


 

 

昔、女優シリーズなんかで女装ばっかりしていた時には、「このおっさん、もっとおっさんになったら作品作れなくなるのでは…」と余計な心配をしたりしましたが、今回の大個展を見ますと杞憂のようです。

今の年齢と風貌も活かすぐらい精力的に制作を続けるエネルギッシュな美術家です。

 

最近は東大で三島由紀夫に扮して演説パフォーマンスをしたり、近代の日本美術に焦点を当てているものが増えているような気がします。そしてそれらは戦争・政治など、今の社会に対して強いメッセージ性を持っていると感じます。

世界で不穏な空気が漂う中、私たちの国がどうあるべきか。私たちは大きな時代の波に流されて、行先を見失っていないだろうか。そんなことを考えさせられます。

 

以前よりも幅広い層に現代アートが認識されつつある日本で、例えばあいちトリエンナーレでは「反日的?」なものに対し、ものすごい批判が殺到しました。

戦争や政治に切りこむことはタブー視されているのでしょうか。私はあいちトリエンナーレの作品を見ていないのでなんとも発言しにくいところはありますが、逆に現代アートで「天皇万歳」とか「今の政治最高!」とか言い出したら本当に怖いな、と考えます。でも、現代の風潮として、そういう気配があってもおかしくはないなと思うし、社会派の現代アートを発表することは、以前よりも覚悟と勇気がいる時代になったように感じています。

美術批評より世間からの誹謗中傷の方がメンタルやられそう!

 

そんな中でも、ゴン攻めの森村氏。

 

まあまあなおじさんになってもパワーアップし続けているのがすごいんですよ。

 

綺麗ねー、とか、クールだねー、お値段いくらー?みたいなアート界を横目に泥の中を這いつくばってぐっちゃぐちゃになりながら雄叫びあげる!みたいな、そういうアート。

 

東京の皆さんはあんまり泥臭いの好きじゃないかもしれませんけど。

 

京都の芸術大学出身者ってそういうとこあるよね。売れそうな作品作るな、みたいな。

今はそうでもないのかな?

 

M式「海の幸」

当展示ではアーティゾン美術館が所蔵する「海の幸」をはじめとする青木繁のコレクションからインスピレーションを得てセッション企画されたものが並びました。

青木繁の作品はこちらからご覧いただけます。

www.artizon.museum

 

「海の幸」は言わずもがなの代表作ですが、他の作品を見ると日本の神話などを題材に扱ったものが数多くあることがわかります。洋画で日本を題材にするのは、少し不思議な感じもしますが、明治のこの時代背景を思えば、こういった題材がもてはやされていた可能性は大いにあるなと思いました。

 

「海の幸」と言えば、私はレーピンの「ヴォルガの船引き」も連想して思い出します。決して裕福ではない人々を描いたいわゆる風俗画です。ヴォルガの方が絶望的な悲壮感が漂っていますが、なんとなく共通する何かがあるように思うんですよね。どうですか?

 

18分のヒトリガタリ 青木と坂本と「戦争」

青木繁は28歳で夭折しますが、M式では森村氏が歳取った青木繁になって青木繁に語りかける、みたいな映像がありました。大阪弁だけど。これがすごかったです。

 

この展示の解説みたいにもなっていて神話の話などもありましたが、動画の中で青木の同郷の画家、坂本繁二郎について話していたところが印象的でした。坂本は馬とか身近なものをモチーフに優しいタッチで描いた画家です。「絶対いい人でしょ」と思わざるを得ない。

その坂本には唯一の戦争画と言われるものがあります。「肉弾三勇士」です。上海事変で爆弾抱えて突破した当時の英雄をモデルにした絵を依頼されたと言われているそうです。

 

青木は、第一次大戦前に亡くなったので、多くの画家が歩んだ道を知りません。

森村氏は、坂本が戦争画を描いたのは当時としては何も珍しいことではなく、世のためになると言われただろうと、「社会貢献せぇっちゅうことや!」と叫びます。

 

時代は少し後になりますが、「戦争画と画家」といえば、藤田嗣治のことも忘れてはいけませんね。国内外で人気の高い作家で、フランス国籍を取って日本に帰ってこなかった画家ですが、その背景には、戦争画を描いたことを責められ(もちろん他にも描いている画家はたくさんいたが、スケープゴートにされたと言われている)「私が日本を捨てたのではない。日本が私を捨てたのだ」と、日本を去らざるをえなくなったということがあります。

 

坂本も九州の田舎でひっそりと絵を描き続けて亡くなったようなので、なんか、日本画壇って、、、お察しします。。。

 

明治〜昭和の近代日本美術史には現代日本が抱える課題が潜んでいる

森村氏が言うように、絵には時代が映り込んでいるのです。森村氏は絵になることで、いろんなことを分析し、発見し、それを見る側にシェアしようとしているのです。いろんな人になったことで、いろんなことが分かっちゃった森村氏がどう消化していこうとしているか。

 

ゴッホモナ・リザとかの時は「面白いな!」で終わっていたことも、近代日本美術を題材にしたことで、急に身近な課題を突きつけられたような気持ちになりました。

 

周りの雰囲気に流されるのではなく、いろんなことに疑問を持つってこと。

 

気になることがあったら、森村氏が「海の幸」を調べて研究して解体し考え尽くしたぐらい、まではいかなくても、何かを鵜呑みにするのではなく、自分で調べて疑問を持ってみるのもいいんじゃないかな。

 

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