「アートのお値段」というドキュメンタリー映画を見に行ってきました。(水曜日はサービスデーの映画館を選んで)
アーティストの言葉はぐっとくるし、アーティストから乖離した場所にあるアート市場の生の声は興味深い。
なかなか面白い映画でした。
アートとあまり関わりのない人が聞くアートの値段とは
日常生活を送っていて、アートの値段を聞くのは、M澤社長がバスキアを123億円で落札したとか、1億5000万円でバンクシーの作品が落札された瞬間シュレッダーが作動して絵が切り刻まれたとか。さらに私の古い記憶を辿れば、高い絵画の象徴として、ゴッホのひまわり53億円…。
どれも、オークションでの値段だということに注目してほしい。
この数年、現代アートが投資価値を持つということで、少額から投資してみたいサラリーマンにも人気の「現代アートを買う」という現象がにわかにブームになっているように感じる。
リスクはあるけれど、安く買ったアートが、高くなって転売すれば大儲け。あと、いろいろ税金対策にも使える。ということに気づいたお金持ちが、現代アートを持ち上げている訳です。完全なるバブル。
アートマーケットってどんな流れ?
映画「アートのお値段」では、オークショニア、コレクター、評論家、ギャラリスト、キュレイター、そしてアーティストたちから生の声を拾って構成されている。
アートオークションとは一体何かという謎をかなりわかりやすく見せてくれる上、どれほどアーティストとかけ離れた場所にアートオークションが存在するかを教えてくれる。
ベーシックな流れを説明します。
❶アーティストが作品を作る
❷ギャラリーで個展、もしくはアートフェアで展示
❸コレクターが買う
❹コレクターが転売したいと思う
❺オークションにかかる(色んな力が値段を限りなくあげるよう働きかける)
❻落札される
わかりますでしょうか。値段で説明してみましょう。
①アーティストが作品を作る。リサーチ・制作材料費は約10万円。制作期間は1ヶ月半。
②個展もしくはアートフェアで展示。販売価格、80万円。
③コレクターが買う。アーティストとギャラリーは売り上げを50:50で折半。
ケースバイケースだが、展覧会のための輸送費も折半したり、アーティスト負担だったりする。
④アーティストがキャリアを重ねる。
⑤コレクターが転売したいと思う。
⑥オークションにかかる。
⑦落札。成功!(300万円!!)
アーティストのこの作品に300万円の価値があるとアート市場で評価されたわけですが、アーティストには最初の40万円しか入っていません。それでも80万円って結構な売値です。40万円から制作費を抜くと30万円。さらに1ヶ月半かかっているので、月給として考えると収入はひと月あたり約26万円。ここから、生活費、家賃、アトリエ代を引くと…。
暮らせるかー!!(ちゃぶ台返し!)
描いたら必ず売れるならまだいいけど、そうでもないしね。
「コレクターとオークション会社め!儲けやがって!」と言いたくなるが、「私たちのおかげで、君の作品の価値が上がったんだ。」とオークショニアは返す。
上手く値段が上がればいいけれど、下がることもある。
下がってしまえばアーティスト人生終了。もしくはさらに生活が厳しくなる可能性が。
映画の中で、「アーティストになってはいけない。99.9999%のアーティストは生活が苦しい。」と言っています。間違いない。
そんなアーティストの中でも、かなりの成功者たちを選んで映画はインタビューしていると思う。ステンレスのウサギで有名なジェフ・クーンズは、ファクトリー的な制作で大作をどんどん世に送り出している。大人数のアーティストアシスタントに絵を描かせている彼のやり方はとても現代アート的だと思うけれど、「自分で描かないの?」という言葉に「すべて僕のコントロール下だ。」と言い切っている。やりたいこと、作りたい作品のアイデアがたくさんあって、それにはお金と人が必要、といった感じ。
他のアーティストには、美術館に収蔵されることを望むリヒターや、「感性を鈍らさないため」と言って飄々と描き続けるコンドなど、人選がすごい。
中でも、フランク・ステラと同時代に現代アートの寵児のひとりとして人気を博したラリー・プーンズがすごかった。
現代アートのマーケットから忘れ去られ、田舎で暮らし、絵を描き続けている。
「新しいものを生み出したい。」
高齢になってもプーンズを突き動かすものは一緒。
人気作家だった頃の絵を褒められても、「過去のもの」には戻らず、挑戦し続けている。
めちゃめちゃかっこいい。
結局アートマーケットの世界に呼び戻されていたから、今後また喰い物にされていくのだろうけど。それでも、見てもらうこと、そして世の中に作品が残ることはアーティスト冥利につきるからな〜。
最後に
劇中、PriceとValueという言葉が何度も出てくる。
その中でPricelessの存在が際立つ。
アートはお金と切り離せないとオークショニアは言うけれど、登場するどのアーティストもお金の為に制作をする人はいなかった。自分にとってPricelessなものは何か再認識したい。
お金いらない、とは言わない。お金のある生活は素敵だろう、と思うけれど、お金はモチベーションにならない。そう可愛く言う若手作家クロスビーの言葉に共感したし、プーンズの生き方がかっこいいと思った。リヒターは雲の上の存在だし、コンドがピカソの系譜にあることがよくわかった。アーティストの言葉を聞くのはとても面白い。
ジェフ・クーンズは…、なんだかすごいよ…。
そして、なる子、やっぱりアーティストになりたい。(タイトルで戒めたのに)
まとめます。
アートフェアや個展でアーティストに入る売り上げは良くて半分。
オークションでどんなに高値になろうと、アーティストには一銭も入ってきません。これだけでも知っておいてもらえると良いのではないでしょうか。