なる子とマーナル☆

少女の心を忘れない、なる子とマーナル☆によるアート・旅行・キッズ応援ブログ

芸術と若さと男と女

朝の連続ドラマ「スカーレット」がすごい展開なので、毎回ドキドキしています。

すごいドラマです。ぜひ見て欲しい。

 

ただいま、主人公の女性陶芸家・喜美子と陶芸家の夫・八郎を中心に物語は展開中です。

 

この二人の工房に押しかけで弟子入りしてきたのが、若いミツ(三津)という女の子です。まだ大学を卒業したばかり。ぴっちぴちで、元気ハツラツ!

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主人公のモデルになったと言われる神山夫妻は離婚していて、夫の方には相手の女性もいるので、「スカーレット」もどうなるのかと不穏な噂も流れていたのですが、あくまでもオリジナルの台本で物語は進んでいると思います。モデルと言われる神山夫妻の事情はどうあれ、「スカーレット」は芸術家の愛と苦悩がマジで上手く描かれています。本当にドキドキしてしまうのです。

 

昔、美大を舞台にした漫画「ハチミツとクローバー」がヒットしましたが、芸術家のドロドロを描いていなかった「ハチクロ」はやはり物足りなかった、と改めて思うのです。そういえば、スカーレットの「ハチさん」と「ミツ」でハチミツ…いや、関係ないんだけど…。

 

ということで、今回は芸術家の恋について、勝手に語りたいと思います。「お前が語るな。」と自分で自分にツッコミが入るところですが。お手柔らかに。

 

 

 

「喜美子の隣にいるのが苦しい」

夫、八郎は弟子のミツにポロリと本音を吐き出します。ミツは本当に賢い子で、この意味をすぐに悟ります。そして、喜美子に無邪気に伝えるのです。

「圧倒的な才能のある人のそばにいるのは苦しいんですよ!」

 

芸術家の恋は芸術が絡むと非常にややこしいのです。才能のある人に惚れるのです。そして、圧倒的な才能が側にいると、自分の無力感に絶望するのです。他人から見れば、その人だって世の中で認められるほどの才能があるのにも関わらずです。才能のある人は、自分が苦しんで、何度も何度も失敗して、やっとできるかできないかのことを、あっさりとやってのけてしまうのです。努力では叶わない何かを目の当たりにすると…

 

苦しい。

 

大好きな人だけど、憎らしい。才能に嫉妬する。

 

高村光太郎と智恵子の関係もそうだったかもしれません。智恵子も画家でしたが、光太郎は、光雲という超絶技巧の彫刻家の父を持ち、(父の作品はパリ万博にも出品)光太郎自身も彫刻家であり、画家であり、詩まで書いちゃう。智恵子にとって、光太郎は芸術的才能の権化。夫婦になってから、智恵子の心は病んでいきます。その原因は光太郎の圧倒的な才能だったと言われています。天才を横にして、画家の智恵子は苦しかったのです。きっと、「光太郎の妻」としか扱われなかったのでしょう。智恵子は「画家・智恵子」として世の中に認められたかったのかもしれません。

 

精神が壊れていく智恵子の様子を、光太郎は残酷なまでに美しく詩に綴ります。詩集「智恵子抄」。私の持っていた本には、智恵子が療養中に制作した切り紙の作品の写真が載っていました。とってもとっても素敵です。

 

「ハチさんが私に陶芸を教えてくれた」

女性陶芸家の話、と初めから銘打っていますから、主人公の喜美子がいずれは陶芸家として大成するんだろう、ということは初めからわかっているのですが、そこに至るまで決してストレートではないし、ドラマを見ている限り喜美子に爆発的な才能があるような描かれ方はしていないのです。なのに「芸術は喜美子に任せた。」と八郎に言われてしまいます。喜美子にとっては八郎は、大好きな夫であり陶芸の先生です。いつまでもいつまでも、尊敬し頼れる相手であってほしいのです。「芸術は任せた。」は、喜美子に新しい道を開かせると共に、その道は辛く険しく、先導してくれる人がおらず、責任ものしかかってくる。

 

いざとなったら、一人でも茨の道を突き進む「覚悟」

その「覚悟」を決めるのが今週のストーリーなのかなぁ!なんて気持ちで見ています。

 

「初めて男に生まれたら良かったって思いました」

弟子のミツ…!賢く、好奇心旺盛で、天真爛漫。一気に頑固な八郎の心も開いていく。師への尊敬は恋愛感情に変わりやすい。これはマジで芸術家あるあるです。

 

有名なところで挙げると、ロダンカミーユでしょうか。ロダンには内妻ローズがいたので、カミーユは愛人という扱い。ロダンはたくさんの傑作を残していますが、今ではその多くの作品でカミーユが関わっていることがわかっています。ロダンの名作は実はカミーユの作品ということも。ロダンも偉大な彫刻家ですから、カミーユロダンのことをとても尊敬し愛し支えていたのだと思います。さらに19世紀末、女性が単独で彫刻家として認められるには時代が追いついていなかったことでしょう。

19歳のカミーユ、42歳のロダン

 

まあ、師弟の間の恋仲って「あるある」だと思うのです。

 

とある美術大学で、新任の教授が赴任したと同時に、当時の愛人(前職場の学生さん)が院生として入学してきた話、聞いたことがあります。まあ、もう離婚が決まっていて、後に結婚したそうですけど。

 

恋は女を狂わせるのですよ。

 

「スカーレット」のミツは自分の足で得た見聞を惜しみなく八郎に降り注ぎ、八郎の創作活動にも影響を与えます。成人男性は八郎だけの家に住み込み、弟子として働いているうちに八郎に特別な感情を抱き始めます。歳も離れているし、先生と弟子だし、ただの仲良し師弟だし…のはずが、うっかり八郎先生の肩にもたれかかって寝てしまい、うっかり寝ている八郎先生にキスしたくなってしまいます。

 

若さゆえの衝動

 

八郎に気づかれてしまい、「ハッ」となるミツ。いつの間にか恋に浮かれそうになっている自分に気づくのです。

 

いや、八郎だって若い女の子と「きゃっきゃ」おしゃべりするのは楽しかっただろうよ…喜美子への愛が変わらずともね。

 

しかし。

 

ミツ、弟子を辞めて出ていく決意をする。

 

そして「男だったら良かったのに。」と初めて思う。

 

あちこちの工房で「女はダメだ」と断られてきた。「なぜダメなんだろう。」と悩んできた。でも、いつの間にか八郎へ恋心を抱くようになり、「女はダメだ」と思う。陶芸への愛はあるのに、若さゆえの恋心が純粋な陶芸への道を邪魔してくる。男なら、先生への気持ちは尊敬だけで済んだのに。男ならただの仲良し師弟でいられたのに。そしてもっと陶芸に対し素直な気持ちで取り組めたかもしれない。

 

恋がこれ以上自分を狂わせてしまう前に。賢いミツ、川原家を出る。

 

切ないな、おい。

 

「ハチさん、どないしよう。」

窯の温度が上がらず不安な喜美子。アトリエにいる八郎に助けを求めようと扉を開けると、八郎とミツが仮眠をとっていました。ミツが八郎の肩に寄りかかるように。

 

ミツが八郎に抱いていた気持ちにようやく気付き、もしかしたら八郎もまんざらではない、ってことにも気づけたか…

 

何も言わず、そっと扉を閉め、窯の炎に向き合い直ります。

 

嫉妬?

 

そんな簡単な言葉で、喜美子の感情を語れるでしょうか。

 

陶芸家の妻から、「陶芸家・川原喜美子」になる覚悟の瞬間だったのではないでしょうか。自分が追いかけて、背中を押していた八郎はもう喜美子の前にはいない。

 

喜美子は陶芸家として、誰も前に歩いていない道を進まなくてはいけないのです。

 

泣くわけでも、叫ぶわけでも、取り乱すでもなく、少し目を細めて熱い炎に向かう。

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Twitterでは「戸田恵梨香の演技力!!」の言葉が溢れています。

 

喜美子と八郎は夫婦でありながら、別の芸術の道を行く。

 

朝ドラで初めて離婚を描いたと言われる「ふたりっ子」(女流棋士の話)を思い出しましたが、「スカーレット」は令和の質の高いドラマだからこそ、芸術家夫婦が困難ありながらも制作し続ける姿を描いて欲しいなぁ、と思うのです。

 

しかし、喜美子、芸術のために生活費や貯金に手をつけ始めます。家庭崩壊の危機。


「男やったら良かった…」でも、そんなこと、どうでもいいぐらい作りたい!!!

 

ああ、恋も芸術も、女を狂わせるね!

 

スカーレット、見てね。