なる子とマーナル☆

少女の心を忘れない、なる子とマーナル☆によるアート・旅行・キッズ応援ブログ

聞く映画『関心領域』を見ました。ネタバレあります。

エンドロールが終わって、劇場の明かりが点灯してもすぐには立ち上がれない。一度肺に入れた空気を静かに吐き出してから立ち上がる。許されるなら、そのまま1時間はボーッと脱力していたいと思った人もいるはず。ポップコーンを買っていたあの若者たちは、果たして食べきれたのか。

 

今更感あるかもしれませんが、友人のごり押しで見に行ってきました。「関心領域」です。

正直、まとまらないですけど、記録として書きたいと思います。

(そのうちまた、アート・工作ブログも書きます…)

 

英題「The Zone of Interest」ドイツ語で「Intressengebiet」。

第二次世界大戦中、アウシュビッツ強制収容所で働くナチスドイツ人の生活の為に設けられた収容所周辺40平方キロメートルのエリアのことを指すそうで、この意味の正確なニュアンスは私にはわからないけれど「利益を享受できるエリア」というような意味も含まれているそう。それにしても「関心領域」とはよく言ったもんで、いろんな角度からこの言葉を解釈できるし、「人々の関心・無関心」だけではない、人間の怖さがじわじわと沁み込んできて、ひんやり凍える映画でした。

 

あらすじ

アウシュヴィッツ強制収容所の隣に暮らす所長ヘスとその家族の日常を描いている。収容所内の様子は直接的には描かれず、仕事熱心で家族思いの父であるヘスと田舎での憧れの豊かな生活を手に入れた妻ヘートヴィヒ、子どもたちの様子を淡々と映し出す。

 

オープニング

真っ暗な画面が約3分続く。その間、気持ち悪い轟音が静かに響く。音が重要な映画であることを示しているという。冒頭から最悪。ホロコーストが映画になっているとわかっていれば、真っ暗闇の部屋に押し込まれた人々を想像してしまう。

 

環境音

この気持ち悪い音はずーっとずーっと続く。音に紛れて、叫び声や怒号、銃声のようなものが混じる。音だけで塀の向こうは異常な状況だとわかるのに、ヘス一家は気にも留めず暮らしている。夜には塀の向こうに暗闇の中で燃える火と煙が見える。この気持ち悪いボイラーのような環境音は収容所のガス室か、焼却炉か、そういうところから出ていると連想させる。ずっと鳴っているので、ヘス一家の動向に気を取られていると聞こえる音が気にならなくなっていることがある。人の声が聞こえても基本的に字幕も出ないのでだんだん重要でなくなってくるような感覚に陥る。怖い。

忘れかけそうになった時に引き戻させられる演出もある。娘を訪ねて来たヘートヴィヒの母は、度々塀の向こうから聞こえる音が気になるし、夜になった時にその不穏な音と絶えず煙が上がる様子に耐えきれずこっそり帰ってしまう。

もう一つは、一人あそびをしていた次男が外から聞こえた声に対して応えるように独り言を言うシーン。

 

ホロコーストについて、ある程度の基礎知識があるからこそ成り立つのかもしれないけれど、音だけで人間の残虐性を炙り出してくることに驚愕する。

また、ヘス一家が、「もう少し良い暮らし」を夢見た労働者階級であることがわかることで痛々しさが増す。

 

「今よりも少しだけ良い暮らし」それは自分自身も持っているごく一般的な欲だと思う。

 

ラブラブだった頃に行ったイタリアのリゾートにもう一度連れて行ってほしい。

野原だった土地を整え、家を建て、ペンキを塗り、庭を作った。プールもある。

自分が手をかけて作り上げたこの暮らしを失いたくない。

映画の中では異常な女に見えるルートヴィヒだけど、限りなく自分自身にも近い気がした。

本当に怖いし、落ち込んだ。

 

リンゴをこっそり運ぶ少女

実在のモデルがいるポーランド人の少女。収容された強制労働者の現場に夜中こっそり忍び込み、リンゴを土の中に埋めていく。この様子がサーモグラフィで映し出される。強制収容所で起こる惨劇に無関心の人々ばかりが映し出される中、善良な一市民の姿は大いなる救いになっている。しかし、映画が終わりに近づいていく頃、塀の向こうから聞こえる声から、わずかな食料であるリンゴを見つけた収容者の間で諍いが起き、それに気づいた看守が揉めた収容者を銃で撃ってしまったことがわかる。

 

辛い。

 

エンディングもサウンドだけで気持ちが重くなる。

 

映画鑑賞後、帰宅しベッドに寝転がって耳をすました。

微かに聞こえる飛行機の轟音。工場エリアか、高速道路からの音か。私の生活は絶え間なく不穏な環境音に囲まれていることに気づく。

東京で暮らすことはなかなかに異常なことだ。

 

先日行った横浜トリエンナーレでは、ウクライナの一般住民が戦闘機の音マネを声でする映像が展示されていた。戦争によって生活が変わり、聞いただけで何の戦闘機か識別しどう行動するか、新たな生活の知識が加わった。みたいな解説だったと思う。この作品はヴェネチアビエンナーレでも展示されているらしい。

 

戦争や貧困や犯罪が世界で起きていて、目を向けなければという気持ちがありながらも、己の小さな欲望の方が思考を支配してくる。

 

私は何かに対して発言するほどの徳を積めていないな。

 

もっと平和でいい世の中になったらいいな、私自身もっといい暮らしがしたいな、という錯綜する思いを抱え、東京都知事選の広報紙を開いて、冗談みたいな内容に絶望的な気持ちになりながらも投票所に行った。

 

この映画には原作があるらしい。

映画とは別物だとは思うけれど、読む勇気が出ない。