初!ノミネートの4名が共同受賞!賞金4万ポンド(約570万円)は4等分!
ターナー賞とは
イギリスの画家として有名なターナーの名を冠した現代美術賞です。対象は50歳以下の美術家で、イギリス人もしくは拠点がイギリス。ターナーといえば、光と霧がかった幻想的な風景画家で、私が使っていた美術の教科書には機関車が走る絵が載っていました。イギリスの絵画史では、世界的に有名になった作家が少なめで、イギリスと言えば描くよりコレクションが得意な国である印象が強いですが、ターナーはそんな中で生まれたスーパースターです。ターナーは現代アートから見ると、ちょっとクラシックですが、ターナー賞はバキバキの現代アートプライズです。Tate Britainで開催しています。
ギルバート&ジョージ
リチャード・ロング
アニシュ・カプーア
アントニー・ゴムリー
クリス・オフィーリ
などなど、美術史に残るだろうアーティストが受賞してきました。
なんとなく派手なイメージもあり、芸能人のようなアーティストも多いイメージです。政治や社会の問題について議論を巻き起こすきっかけになることも多く、イギリスでは毎回作品だけでなく、その裏側やゴシップが話題になることがあります。イギリス人は常にそういうのが大好きなので、ターナー賞ももれなく…といった感じですが。
2019年のターナー賞、同時受賞ってどういうこと?
2019年のノミネートは以下の4名
現代美術シーンに疎い私はピンとこないアーティストばかりなのですが、イギリスの現代美術賞でありながら、バックグラウンドが様々。中には、イギリスが拠点なのか…?と訝しんでしまうアーティストも。
そんな4人が共同で、審査員に書簡を送ったと言うのです。
美術手帖の記事によると、「イギリスや世界の世界の多くの国で世界的危機を生じている現在、人々や地域社会を分断し、孤立させるものがすでに多く存在する中で、芸術においても、私たちはこの賞の機会を使い、多様性や連帯の名の下に、共同受賞する意義を強く感じています。」と言う声明だったそうです。
審査員はこれに賛同し、同時受賞となりました。
ちなみに2016年ターナー賞受賞のHelen Martainはヘップワース賞の賞金3万ポンドを他の3人とシェアしています。「ターナー賞も…」とメディアで宣言していたそうですが、結果どうしたかは記事が見当たりませんでした。
また、今年のブッカー賞(イギリスの文学賞)5万ポンドも最終選考者でシェアされたそうです。イギリスではこうした流れが高まっているようです。
アートが社会に与える役割とは
アートって難しい言葉だな、と思います。簡単にアートって言葉にしますが定義が曖昧で、そもそもアートの土壌が日本文化にないので、「美術」って無理やり日本語に訳したそうです。
なんとなく大雑把に、現在の日本でアートと認識されているものを二つのカテゴリーに分けてみました。
●生活に彩りを与えるもの。絵画や彫刻だけでなく、工芸や、漫画などのサブカルも含む
●鑑賞者の感性や思考に刺激を与えるもの。
前者はイメージしやすいと思います。「部屋の中にアートがあったらいいなぁ」と言うあの感覚です。前者だけのアートもあるし、後者を含むアートもある。また、「こんなの家に飾れないよ!」と言うような作品でも、考えさせられたり議論を呼んだりするものがあります。
話題になった、あいちトリエンナーレがいい例かもしれません。アートは右とか左とか白黒はっきりさせるものではなく、「クエスチョンの投げかけ」なのです。
テートの館長の言葉です。"In coming together and presenting themselves as a group, this year's nominated artists certainly gave the jury a lot to think about"(今年の4人の候補者に審査員は多くのことを考えさせられた。)
ガーディアン紙。"Good for them!-subverting the Turner prize is what artists are meant to do!"(アーティストがターナー賞をひっくり返した!それでこそアーティストだ!)
賞金シェアの先に何があるか
大きな賞の裏側には政治的なものや、コネとか、ゴシップとかつきものです。ブリグジットが決定されて以来、イギリスはずっと混乱の中にあります。ただでさえ、移民や人種問題が多いのに。
ロンドンに住んでいると特に感じることですが、イギリス人は半分くらい。隣人のほとんどは外国人だし、イギリス国籍を持っていても、先祖はイギリス人以外がミックスされていることが多いのです。ターナー賞のシェアは、そんな多様性のある国で、何かを排除したり、孤立を生んだりする状況に目を向けて欲しい、というアクションだと思います。大きな賞だから、多くの人にアクションが届くので、アーティストの役割としてこれほど強いものはない、と判断したのでしょう。
混乱してはいけないのは、「徒競走でみんな1番」とは違うところです。「今後賞金はシェアして当たり前」でもないのです。
アーティストの行動は、多くの感動を呼ぶし、反発も起こします。正しい答えではないし、展覧会中止、補助金取り下げみたいなわけのわからない状況を生むこともあります。
なんとなく世間から離れた場所にあるイメージのアート界。
大事なこと、それはアーティストは社会を無視していないということ。
激動のイギリス。今後のブリティッシュアートの動向にも注目です。