最近、親族が他界しまして、お通夜・告別式に参列しました。大往生だったので、幸せな最期だったと思います。
なる子の家族は、どちらかと言うと、ご長寿家系な上、色々タイミングもありお葬式というものに幼稚園に通っていた頃以来、縁がありませんでしたので、なんと言うか、人の死というものに接する機会をもらったことで、自分自身の物事の感じ方の変化を目の当たりにしています。
心の中に何度も浮き上がってくる言葉があるのです。
メメント・モリ(Memento mori )です。
「死を思え」という意味のラテン語です。
「人はいつかは死ぬ。そのことを忘れるな。」という警句で、よく絵画や美術に出てくるキーワードでもあります。私は同様によく使われるカルペ・ディエム(Carpe diem)という言葉の方がポジティブな印象があって、「メメント・モリ」が心の中に浮かんだら「カルぺ・ディエム」も同時に思い出すようにしています。カルぺ・ディエムは「その日の花を摘め」という意味で、日々を大事に楽しく過ごそうという助言です。
(メメント・モリの方が言いたくなるワードというか、覚えやすいんで、カルぺ・ディエム忘れがち)
古代ローマからの言葉ですが、キリスト教の中で違った意味合いを持ち教導的なものになっていきました。
それを示すのが「ヴァニタス」と呼ばれる静物画のジャンルです。「虚しさ」とか「儚さ」を指すラテン語です。
国立新美術館「メトロポリタン美術館展」(2022年2月9日(水)〜5月30日(月)まで)で、ピーテル・クラースのヴァニタスを見ることができます。フェルメールの近くにあると思うのでぜひ見てください。
命、若さ、名声、権力、富、など人が現世で得られるものは儚く脆いものであると説き、静物画に描かれるモチーフはそれぞれ意味を持つ(寓意)ことが多く、髑髏やグラスなどがよく描かれました。
髑髏は死を、本は人間の努力と叡智の蓄積を表していると言います。消えかけのランプは人の人生の儚さを暗示しています。
ここには描かれていませんが、ヴァニタスではみずみずしい花と萎れた花を「生と死」の対比を示すように描かれたりするのもよくあるモチーフです。このように何かと意味合いを込めて描かれ、「短く儚い人生をどのように生きるか」と諭し、西洋絵画ではずっとメジャーな主題となっています。
やはり、ピーテル・クラースのような超リアルなオランダ細密画が印象的な為、ヴァニタスは「俺の技術、見てくれ!」と主張しているようで、「ああ、上手に描けてますね。」という感想しかこれまでなかったのですが、今となっては諸行無常の精神にも近いものを感じ、気になるジャンルになっています。
身近なものでヴァニタスになりそうな現代的なモチーフってなんだろうな、なんてことも考えたりしています。SNSのフォロワー数とか?
というわけで、「虚」という字を選んでみましたが、つまりは「毎日を大事に生きようね」ということなので、明日もがんばりましょう。おやすみなさい。
追記:
今回の記事を書くにあたっての参考図書です。
「いちばん親切な西洋美術史」126ページ「静物画とヴァニタス」
フルカラーで写真が多く、キーワードもまとまっており、五郎さんのYoutube見る時、横に置いておくと西洋美術史の流れがさらによくわかりそう。私のように西洋美術史の流れが混乱しがちな人におすすめの本。
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「美術シンボル事典」かなり上級者向け。図版が少ないので言葉だけで探すの至難の技。
より深く西洋絵画を学ぶには手元にあると便利かもしれない。
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