現代アートって何?アール・ブリュットって?
現代アートを語る時に、ポイントとなるのは「美術史の文脈」とよく言われます。
そのアートが、現代アートか現代アートでないかは先人のアーティスト(主に西洋の)が何を考え何を描いたり作ったりしてきたか、を知った上でそれをどう捉えたか、美術史の文脈にのっ取って制作されたものかどうかが大事だと言われています。
つまり、大学もしくは大学院等で美術教育を受けたかどうか、そこが現代アートにとっては結構重要なことなのです。
こんな風に言うと随分偉そうですよね。
しかし、思いませんか?
「美術教育を受けていなくても、素晴らしいアート作品ってあるんじゃないの?」と。
そうなんです。美術大学で専門的な知識や技術を身につけた経験がなくても、人の琴線に触れる作品は多数存在します。
こういった、いわゆるアートの主流の外側にあるものを「アウトサイダー・アート」と呼びます。
ここで、注意しておかなければいけないのは、日本ではアウトサイダー・アートのことを、特に障がい者アートを指して呼ぶことが多いことです。本来、世界的に使われている意味あいとしては、精神障がい者のアートだけでなく、独学アート、民族芸術や刑務所内アートなんかも含むと言われています。
逆に、精神障害を持っていてもバリバリ現代アートの世界にいるアーティストは、美術教育と訓練をしっかり受けていて、その作風が美術史の文脈に当てはまるから現代アートの枠組みの中にいるのだと解釈することもできるかもしれません。
アウトサイダー・アートという言葉がメジャーになるにつれ、どうしても障がい者アートの意味合いが強すぎてしまってきたので、その概念を取り払う意図もあってか、アール・ブリュットという別の呼び方も最近よく使われています。
「生の芸術」という意味なのだそうです。
ともかく近年アール・ブリュットの世界は評価が爆上がり中なんだそうです。
日本にいるとピンとこないですが、私の肌感覚ではだいたい5年以上遅れぐらいで世界のアートトレンドに追いついている感覚なので、まあ、そろそろぼちぼちと言ったところなんじゃないでしょうか。
最近だと、3331 Arts Chiyodaという元中学校の校舎を改装したアート施設で開催されていた『偶然と、必然と、』展
もう会期は終了してしまいましたが、なかなか面白かったです。
会場内撮影禁止だったので、画像がありませんが、作家紹介が作品の後にくる構成。先入観を持たずに見ることができる仕掛けは、丁寧で好感が持てました。
まるで楽譜のような美しい手紙を母に向けて描き続ける作家、道路脇で作り始めたお土産の木彫がどんどん巨大化した作家。毎日撫で撫でしたことで角が取れ、味わいのある形になった家族写真…。
作品はどれもパワフルで面白いものがたくさん。この展示には後日ポンピドゥーセンターに収蔵されたものもあったのだとか。
今や、世界を代表する現代アートの美術館こそが、アートの主流の枠を超えてアール・ブリュットの作品をコレクションする時代になったのです。
アール・ブリュット!?なる子のいちおしアーティスト紹介する。
約3年前に遡ります。
SNSに素敵な手作りのグリーティングカードを載せている人がいて、相互フォローしていたところ、手作りカードの作者はその人のお母さんだとわかりました。そのお母さんの個展があるというので、最終日に駆け込みで見に行ったところ、かわいいグリーティングカードどころじゃない世界が広がっていたのです。
世田谷の区民ギャラリーで、こんなことってあるのか…。
(あんなに衝撃を受けたのに、当時の写真がないとなると、衝撃受けすぎたのかも。)
あの衝撃が忘れられず、先日3年ぶりの個展があるというので再び世田谷の区民ギャラリーに行ってきました。
嶋暎子さん『紙の船 東京ビオトープ2020』展へ。
2020…
あえての?
で、作品がこちら。
やばい。
(口悪い。しかし褒めてる。)
のっけからやばい作品登場した。
お分かりいただけますでしょうか。彼女の作品はコラージュ(写真、新聞やチラシなどを切り抜いて貼り合わせるピカソが発明したと言われるパピエ・コレが起源とする技法)、しかも超巨大なコラージュなのです。
これって100号サイズ?
こんなに拡大してもこのクオリティ。
全体で見ると魚眼レンズで覗いたみたいな構図になっていて、構成力がやばい。
え?魚眼だから魚?違うか。
ちょっと毒っけのある感じがクセになる〜。
小さい作品が超かわいい。
いや、しかしこっちな。(迫力)
お気づきでしょうか。
ブログに載せる許可は取ってないので、お手元だけにしておきましたが、こちらが作者の嶋さん。アラウンド80歳だとか…。
80…!?
仕事を辞め、老老介護で消耗する日々の中、夜中にコツコツと作り続けたという脅威の作品群です。
美術教育を受けていない嶋さんが、高齢になってから始めたアート。ちょっと考えられない。
そして、今年の個展はこれだけじゃなかった…!
大量の…
とにかく大量の新聞紙バッグ。
前の個展から3年経っているとはいえ、尋常じゃない数。
コロナ禍で作り溜められたバッグはとても丁寧に作られていて丈夫で形も綺麗。
「紙の船」って新聞紙バッグの形を見て形容したのかな。
また、記事の切り取り方のセンスが素晴らしい。
コロナ禍だからこそ登場した広告ページを使ったり。
ジェンダー問題や
エコやSDGs、
音楽、文化、サブカル、
普段なら見逃してしまうような記事が目に入ってきて、今の世の中が見えてくる。
三島喜美代さんのこの展示を思い出しました。
新聞って時代を映す鏡。面白い。でも切り取り方って結構肝の部分だと思うんですよね。そこはアーティストのセンスなんだと思います。
嶋さんの新聞紙バッグが、ただのリサイクルバッグに見えないのは、彼女独自の視点がしっかり入っているからでしょう。
それにしてもこの大量のバッグに、一点一点コラージュタグ…。
おもろかわいいタグ。バッグが役目を終えても嶋さんの作品のカケラが残る仕組みですね!
今回の展示も心の底から行ってよかった。もうすぐ79歳の嶋さんがこんなに頑張っているんだから…と励まされました。
実は、私が展示に行った後、クチコミでSNSちょいバズりしたそうで、この展示の評判を聞きつけて著名なジャーナリストの方もいらっしゃったとか。
アール・ブリュットの時代の波が届こうとしている今、もしかしたら彼女の作品はこれからもっと注目を集めることになるかもしれません。
今週のお題「叫びたい!」「概念を解放せよ!」