2024年のヴェネチアビエンナーレではオーストラリア館のアーチー・ムーアのインスタレーション作品が金獅子賞を受賞したことは、アートファンにとってはまだ記憶に新しいはず。
私はネット記事とかでしか見ていないのですが、、、。参考記事↓
https://artnewsjapan.com/article/2605
黒く塗られた壁・天井一面にカミラロイ族とビガンブル族の二つのルーツを持つアーティストにより、6万5000年分の先祖の家系図が書かれている。とんでもないボリュームで、ここまで遡るリサーチもすごい時間と労力がかかっただろうなと圧倒される作品です。(6万5000年前の家系図に正確性を求めるのは不可能だと思うので文字がちっちゃくて見えないところとかは、歴史のボリュームを示すという役割を持っているのかも)
そして、部屋の中心には部分的に黒塗りのある書類が積み上げられ、それはどうやら先住民が拘束中に死亡したことを記録した書類とのこと。(名前が故人への敬意として塗りつぶされているそうです。)
つまり、繋いできた血脈と歴史を、理不尽に絶たれることがある事実があるということを示したアート作品ということです。
そしてそれは人種差別という形で現代もなくなっていない社会課題です。
記事にもある通り、アーティスト本人の個人的な作品のようで、現在の政治的な問題、人類の根源的な社会構造の歪みを突きつけられますね。
こんな感じで、2024年のヴェネチア・ビエンナーレは掲げられた総合テーマが「Foreigners Everywhere(どこにでもいる外国人)」であることから、先住民アーティストの存在が注目されたアートの祭典でした。
私の友人は、「アート界という白人社会の中で先住民を特別に扱うような構造は、19世紀のパリ万博で先住民を展示した過去を想起させられる気持ち悪さはあるものの、アートが無視してはいけないものを見ることができた面もある。」というような感想を言っていました。なるほどね。
コアラとカンガルーぐらいのイメージしかないオーストラリアの見えにくい部分を可視化するには、やはりアボリジナルの当事者のアートを見ないと!
さて、これを書いている2025年8月現在、東京駅八重洲側にあるアーティゾン美術館では『彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術』と題した展覧会が開催中です。「先住民」というテーマに「女性」も乗っかっています。
アボリジナル・アートのイメージって、「あの点点のやつ」でしかなかった恥ずかしい私です。
過去記事、、、アボリジニアンとか言ってるし。訂正して、アボリジナルですね。
ごめんなさい。
文字の代わりに記号を使った。地図のような絵を描いた。この程度の知識しかなかったので、現代アートの中でアボリジナル・アートがどうなっているのか、知見をアップデートさせたいという思いもあり、行ってきました。
展覧会詳細↓
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/echoes_unveiled/highlight/
一番初めの部屋には、いわゆるイメージする民芸的な要素を感じる絵画が展示されており、樹皮(バークペインティング)や丸太に描かれて模様が美しいアートがありました。
解説を読むと、「伝統的な図案は男性により受け継がれてきたが、このアーティストは夫からこれを描く許可を取り制作した」というようなことが書かれていました。
えー!初っ端からジェンダーのやつ、来た〜。
オーストラリアは広いので、ひとことにアボリジナルと言っても、多様な文化があるはずなので、端的には言い切れないかもしれないですけど、基本的にはアボリジナルアートは男性のものだったようです。これも解説によると1970〜80年代のアボリジナル・現代アートはまさしく男性中心であったということなので、現代アートの分野においては世界標準と同じように男性優位であったという事実があります。この辺りは白人男性が優位に立ち続けてきた世界の歴史を感じさせます。
そんな逆風の中で、活躍の場を広げてきたオーストラリアの先住民バックグラウンドを持つ女性作家たちを取り上げた展覧会がこれなのです。
私がドキッとした作品は、人間として住民登録されていなかったタスマニアの子供たちの同化政策をテーマとしたもの。
差別され、住民としても認められていなかった非道な扱いを受けてきたタスマニアの人たち。虐殺されたとしても、そもそも人として登録されていないので、記録に残らない。アボリジニを社会の一員とすることを目指した同化政策は、タスマニアの子供達を親から引き剥がし、西洋式の再教育を強制し、タスマニアのアボリジニの文化、社会を崩壊させた。
展示台には、調べられるだけ調べた子供たちの名前が書かれた木の槍が束ねられている。その中にアーティストの先祖の名もある。

ガラス彫刻の展示もありました。木などの自然物を使った彫刻や、天然の顔料や染料を使った作品が並ぶ中、際立って見えました。
このガラス彫刻作家の故郷はイギリスの核実験に利用され、近隣のアボリジナルピープルに健康被害を与えた歴史のある地。
広大なエリアで今も立ち入り禁止になっているらしい。
展示台にはウラングラスで作られた爆弾が並びます。
ブラックライトで怪しく光ります。8月のこの時期に核爆弾の作品を見ることは、原爆の話を幾度となく聞いてきた日本人には、胸を潰されそうな気持ちになりますよね。
学びの多い展示でした。知らないことだらけ。
日本にも、先住民のアイヌ、琉球・沖縄の人たち。知っているようで本当には知らないことが多いですよね。
アイヌのことは正直『ゴールデンカムイ』レベルの知識しかないですが…。
おすすめの絵本を1冊。
カニ ツンツン ビィ ツンツン…など不思議な言葉が並ぶ絵本ですが、造語ではなく、世界中のいろんな言葉を自由に組み合わせて作っているそうです。絵は元永定正さん。美術グループ「具体」に参加するなど、戦後日本の前衛美術を代表する画家の一人です。
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この絵本の不思議な言葉の中にアイヌの言葉も入っているのです。
この本が発行された1997年は、通称「アイヌ文化振興法」と呼ばれる法律が成立した年なのだそうです。
日本にも明治政府による同化政策がアイヌの人に対してあったことを知っておかなくてはいけない、と思いました。
あまり知られてはいないと思いますが、アイヌの血筋を持つ日本人アーティストはいます。
そして、自己の表現に昇華しようとしています。私も知識で知っているだけなので、なかなか見る機会はないのだと思うけど。
今回見に行った、「彼女たちのアボリジナル・アート展」で見えた先住民のこと、ジェンダーのこと…。オーストラリアのアボリジナルアートって遠い国の遠い人たちのことかと思ったら、抱えているものはとても身近で共通するものが多かった。
今までにない展覧会だったし、今後このような展覧会が日本で見れることがあるかどうかもわからないので、行ってよかったです。日本では政治的な内容を含むアート作品は嫌厭されがちかもしれませんが、こういった作品が海外では展開されているのだということを知れるきっかけになりました。














































